胸腺腫とは?胸腺腫とは、胸の中にある「胸腺」という組織から発生する腫瘍です。うさぎでは比較的よく見られる胸部腫瘍の一つで、腫瘍が大きくなると胸腔内の血管や肺を圧迫し、様々な症状を引き起こします。特に、両眼が前方へ押し出されたように見える「両側性眼球突出」は胸腺腫でよくみられる特徴的な症状です。最近このような症状はありませんか?・眼が以前より飛び出ているように見える・第三眼瞼(瞬膜)が目立つ・呼吸が早い、尾翼呼吸(鼻を広げる呼吸)をしている・元気や活動性や食欲が低下している・寄生虫の感染はないが皮膚がボロボロと剥がれるような皮膚炎がある(剥離性皮膚炎)このような症状がみられる場合、「胸腺腫」という病気が隠れている可能性があります。症例紹介症例 第三眼瞼が目立ち、呼吸が苦しくなった院長のうさぎ【患者背景】うさぎ(ミニウサギ)、10歳9か月、避妊メス【主訴】第三眼瞼が目立ち、呼吸が早く食欲が低下している。呼吸促拍、努力性呼吸(全身で頑張って呼吸している)尾翼呼吸(鼻を膨らましての呼吸)、第三眼瞼突出(右眼の鼻側に出ている膜)【検査、評価】身体検査では、両第三眼瞼が目立ち、呼吸促拍や尾翼呼吸が認められました。胸部レントゲン検査を実施したところ、心臓の陰影がはっきりせず、前胸部から中胸部にかけて塊状陰影が描出されました。酸素化状態で超音波検査、細胞診(FNA)を行いました。酸素化状態での検査(当院では検査室に酸素供給ラインあり)超音波検査にて前縦郭から心臓周囲にて塊病変を認め、胸腺腫を強く疑いました。FNAでは、院内の顕微鏡検査にて小型のリンパ球を認め、より胸腺腫を疑い、外部専門機関へ検査を依頼しました。レントゲン画像(左:正常、右:前胸部にて心臓陰影がはっきりみえず拡大している)超音波画像(赤:心臓、青:腫瘤病変)細胞診検査(赤血球と小型リンパ球)病理検査結果診断方法胸腺腫が疑われる場合には以下の検査を行います。・身体検査・胸部レントゲン検査・胸部超音波検査・CT検査(必要に応じて)・細胞診検査、病理検査治療方法胸腺腫では以下の治療を行います。・内科療法・放射線療法・外科療法・内科療法ステロイドの服用を行います。ステロイドは肝臓に負担をかけるため、投与前と投与後の定期的な血液検査が必要となります。ステロイド単独投与で症状が改善し、生存期間の優位な延長の報告もあります(https://doi.org/10.1053/j.saep.2005.06.003)またシクロスポリンと呼ばれる免疫抑制剤の使用で胸腺腫が小さくなった報告もあります。(https://doi.org/10.11252/dobutsurinshoigaku.23.115)・放射線療法犬や猫では外科療法が不適となるケースにおいて、放射線治療が選択されています。うさぎも同様に放射線治療が行われています。放射線照射の仕方により方法はいくつかありますが、低分割照射(https://doi.org/10.1111/vco.12807)やメガボルテージ放射線療法(RT)(https://doi.org/10.1111/j.1476-5829.2011.00273.x)などで報告があります。放射線療法では放射線照射時に全身麻酔が必須になる点や放射線照射装置を持っている病院が少ないなどの問題もあります。・外科療法外科療法では胸腺腫を完全切除した場合、完治する可能性があります。しかしうさぎでの開胸手術は、難易度がかなり高いです。①うさぎは犬猫に比べ、身体に対する胸部面積が小さい点②開胸手術では陽圧換気が必須になり、そのため気管挿管も必須になります。うさぎは解剖学的に気管が見えず気管挿管は非常に難しい点③胸腺が心臓の頭側に位置するため、大出血や心停止の可能性がある点実際に外科療法を行った7羽では、周術期に5羽が亡くなり、2頭が生存しました。生存した2頭は、6か月、34か月後に再発しています。(https://doi.org/10.5326/jaaha-ms-5683)治療平均生存日数利点欠点無治療約120日呼吸が苦しくなるステロイドの服用約270日安価、治療の導入が早い再燃が早い外科的切除6~34か月完治の可能性がある周術期死亡率が高い侵襲性が高い挿管管理や開胸と手術のレベルが高い放射線量療法約727日低侵襲で長期生存が可能費用がかかる(200万)専門設備への紹介放射線照射時に全身麻酔を複数回かける早期発見が大切うさぎは体調不良を隠す動物です。「呼吸が少し早い」「眼が出ている気がする」と言った小さな変化が、胸腺腫のサインであることがあります。呼吸の異常や眼球突出が認められた場合、早めの受診をおススメします。