今回は患者様のAちゃんについて紹介します。こちらの症例紹介についてはオーナー様の快いご承諾とご協力に感謝いたします。【患者背景】猫(スコティッシュ・フォールド)、10歳2か月、去勢オス【主訴】右眼の涙が多くなり、ここ数日で眼の色が変わってきた。飲水量が多く、最近嘔吐の回数が増加した。右眼の変色【既往歴】なし【検査、評価】甲状腺含め血液検査を実施した。甲状腺の値は正常値であったが、腎臓の項目(BUN、Cre)は軽度に上昇していた。また、右眼は虹彩の変色と前眼房にてモヤを認めた。眼に関しては、仮診断としてブドウ膜炎としたが、非常に専門性が高く精査が必要であったため、眼科専門医の病院へ紹介した。眼科専門医の病院では、特発性もしくは腫瘍性のブドウ膜炎と診断。虹彩毛様体が腫脹しており、腫瘍の可能性が高いとの事。眼の腫瘍ではメラノーマが多く、その次にリンパ腫(眼への転移や原発)が考えられ、超音波検査やレントゲン検査での精査をして下さいとのこと。当院受診より3日後、再診。レントゲン検査と超音波検査を実施。超音波検査にて消化管に1.7cm程の塊病変と腹水を認めた。消化管の塊病変消化管の塊病変に対して細胞診(FNA)と腹水を抜去し、染色した。細胞診(FNA)【診断】消化管リンパ腫(大細胞性を疑う)眼については消化管リンパ腫からの転移を疑うブドウ膜炎初期の慢性腎臓病【治療、経過】治療としては以下の2つが選択肢として挙げられる。①抗がん剤治療②消化管の腫瘍の切除手術後、病理検査、抗がん剤治療リンパ腫は全身性疾患であり、今回は眼への転移をしているため、②の外科治療は根治的ではなく減量目的になる旨、問診上では排便がしており腸閉塞が生じていない点を考慮し①を実施。血液検査で腎数値の上昇があったため、COP療法を選択。シクロホスファミド(C)、ビンクリスチン(O)、プレドニゾロン(P)の薬剤を使用する方法の事。シクロホスファミド、ビンクリスチンは抗がん剤、プレドニゾロンはステロイド剤になる。COP療法ビンクリスチンを投与し、自宅ではステロイド剤の服用を実施。2週間後、シクロホスファミドの投与にて来院した。触診にて左下顎リンパ節の腫脹、腹部の塊病変の触知可能、超音波検査にて消化管の腫瘍が4cm程まで拡大していた。シクロホスファミド投与、補助としてL-アスパラキナーゼ(抗悪性腫瘍酵素製剤)の投与を行った。L-アスパラキナーゼとは、がん細胞に必要な栄養素(L-アスパラギン)を分解して枯渇させることで、細胞の増殖を抑えて死滅させる薬である。拡大した腫瘍病変1週間後、超音波検査にて消化管の腫瘍は1.7cmまで縮小していた。L-アスパラキナーゼの投与を行った。1週間後、超音波検査にて消化管の腫瘍は完全寛解していた。眼のブドウ膜炎も消失していた。寛解とは、検査でがんが確認できない状態に達したことを指す。ただし、体内に微小ながん細胞が残っている可能性があり、再発リスクはゼロではありません。今現在は寛解状態を継続しているが、抗がん剤治療は継続している。現在の眼【考察】リンパ腫とは白血球のリンパ球系細胞が腫瘍化する造血系腫瘍に分類されます。猫に出来る腫瘍の約30%は造血系腫瘍で、その造血腫瘍の中では50~90%とリンパ腫が占めています。リンパ腫は、身体に張り巡らされているリンパ節や脾臓のようなリンパ組織から生じます。リンパ腫は、発生部位によって前縦郭型(左右の肺に挟まれた胸部の空間)、消化器型、多中心型(全身のリンパ節に出来る)、節外性リンパ腫(皮膚、中枢神経、鼻腔内、腎臓)に分類されます。発症年齢や症状は、発生部位によりさまざまで下記に纏めています。腫瘍の種類発症平均年齢症状前縦郭型2~5歳呼吸促拍、呼吸困難消化器型10~12歳嘔吐下痢などの消化器症状、体重減少多中心型1~4歳顎下や脇などの末梢リンパ節の腫脹皮膚型10~12歳強い痒み、脱毛、潰瘍、丘疹など中枢神経系5~9歳痙攣やふらつき、視覚異常、攻撃性の上昇鼻腔内9~12歳鼻汁、鼻出血、顔面の変形、呼吸促拍腎臓7.5歳体重減少、嘔吐猫のリンパ腫は猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)との関連性もあります。FeLVの感染がある猫では、陰性の猫に比べ約60倍ほど、FIVの感染がある猫では、約5倍ほど、双方の感染がある猫では約80倍ほどのリスクがあります。加えて、人のタバコとも関連性があり、受動喫煙暴露の猫のリスクは約2.4倍、5年以上の暴露の猫では約3.2倍と言われています。受動喫煙だと猫は毛を舐める(グルーミング)を行うため、被毛や皮膚に付着した有害物質が、口腔内に付着する事で口腔内癌のリスクもあります。治療に関しては、化学療法(抗がん剤治療)、外科療法、放射線治療があります。しかし、リンパ腫は身体のリンパ節や臓器に生じる可能性があり、全身性疾患になります。そのため化学療法が中心になる事が一般的です。外科療法は消化器型で腸閉塞を生じている症例や皮膚に単独に出来ている場合は第一選択になる事もあります。放射線治療は、前縦郭型や中枢神経型や鼻腔内などが治療対象となります。特に鼻腔内リンパ腫は化学療法と比べ、反応率や平均生存日数が良いとされる報告が上がっています。放射線治療は特殊な機械が必要であるため、ご希望の方は専門病院へご紹介します。