今回は患者様のRちゃんについて紹介します。こちらの症例紹介についてはオーナー様の快いご承諾とご協力に感謝いたします。最後に臓器のお写真が写りますので、苦手な方はご遠慮ください。【患者背景】犬(ミニチュアダックスフンド)、4歳、未去勢オス【主訴】嘔吐の回数をしており、食欲が下がっている。元気は問題なし。【既往歴】なし【検査、評価】触診上では、1つの精巣は触知可能だったが、もう一つの精巣は触知出来ず、腹腔内にある事を疑った。腹腔内の精巣は腫瘍化しやすいため、念のため超音波検査を実施した。超音波検査では腹腔内にて精巣を認めたが、拡大はしておらず腫瘍化はしていなかった。また胃腸の動きは問題なく、超音波検査では明らかな異物は認めなかった。超音波検査にて腹部に精巣らしき塊病変を描出した。超音波検査(腹腔内の精巣)問診時に早朝のみ嘔吐と食事の時間より、胆汁嘔吐症候群を疑った。【診断】胆汁嘔吐症候群疑い(別の症例紹介にて記載)潜在精巣【治療、経過】潜在精巣については、外科的切除を行った。外科的切除後は良好であった。【考察】精巣は腎臓の後ろにて発生し、お腹の中→鼠経管(大腿の付け根)→鼠経輪→皮下→陰嚢内へと精巣下降していきます。この精巣下降は小型犬では生後約1か月、大型犬では生後約3~4か月頃までには完了します。この時期を過ぎても精巣が降りてこない状態は、「潜在精巣(停留睾丸)」と呼ばれ、腫瘍化のリスクが高くなります。生後1か月の子犬では、精巣の発達が未熟で精巣が小さく去勢が可能な時期にて陰嚢内に2つ確認できない場合は、潜在精巣と診断します。犬の潜在精巣は、遺伝的要因が疑われており、トイプードルやヨークシャ・テリア、ミニチュア・ダックスフンドやチワワ等の小型犬に多い傾向にはありますが、どの犬種にも発生することはあります。そのため、陰嚢内に2つ精巣が触知出来ない場合、かかりつけの病院への相談を行ってください。猫においては犬程確率は高くないですが、たまに診察にて遭遇します。哺乳類の精巣は通常陰嚢内に存在し、体温よりも数度低い温度(35度)に保たれることにより正常に機能します。しかしお腹の中や皮膚の下にある精巣の場合は、体温の高い環境に長期間さらされることで精巣の細胞がダメージを受け、正常な精巣に比べ腫瘍化するリスクが約10~14倍も高いため、放置すると非常に危険です。将来的な腫瘍化を防ぐため、早期の去勢手術が推奨されます。精巣に出来る腫瘍で多いのが、セミノーマ(精巣上皮腫)、セルトリ細胞腫やライディッヒ細胞腫(間質細胞腫)です。特にセルトリ細胞腫は性ホルモンのエストロジェンを産生し、この腫瘍の約25~50%の犬に高エストロジェン血症が生じます。高エストロジェン血症では左右対称性脱毛や貧血が認められます。高エストロジェン血症により、骨髄毒性が生じた場合や転移した場合は大変危険です。骨髄へのダメージが深刻の場合、腫瘍を摘出しても造血機能は回復しない事があります。早期な治療が有効のため、繁殖をお考えではない場合、去勢手術をおススメします。陰嚢内に1つのみ精巣(左精巣)を認める開腹手術により摘出した精巣(右)