今回は患者様のKちゃんについて紹介します。こちらの症例紹介についてはオーナー様の快いご承諾とご協力に感謝いたします。【患者背景】猫(MIX)、16歳、避妊メス【主訴】最近、嘔吐の回数が増加した。また一度、嘔吐後に全身性の痙攣が生じた。【既往歴】甲状腺機能亢進症(内服薬にて治療中)慢性腎臓病(ステージ1)【検査、評価】血液検査上では、多血(PCV65%)を認めた。超音波検査上では、右腎臓の腫大と塊状病変を認めた。【診断】右腎臓の腫瘤(リンパ腫や腎腺癌や腎細胞癌疑う)【治療、経過】オーナー様とご相談し、細胞診検査(FNA)を実施した。取れた細胞を外部病理検査にて調べ、腎細胞癌疑いとなった。外科療法と内科療法を提示し、年齢の事もあり内科療法をご希望された。分子標的薬であるトセラニブの服用にて腎細胞癌のコントロールを試みた。服用し2週間後、トセラニブにより腎細胞癌の拡大は認めず、多血症も改善していたが副作用により白血球数の低下を認めた。トセラニブの服用頻度を下げると白血球数は正常範囲に回復するが多血症が生じた。また腫瘍の影響で炎症反応(炎症性タンパク質SAAの上昇)が生じていた。①腎細胞癌は、外科的切除し転移や腎不全がない場合、生存期間が1000日以上超える点②外科的に切除後、ステージ2相当の慢性腎臓病に進行するが、慢性腎臓病(ステージ2)の平均生存日数が約1100日である点③分子標的薬のみでのコントロールが不能、また瀉血処置が今後必要になる点④腫瘍の影響にて炎症反応が生じている点上記より、年齢と基礎疾患(甲状腺機能亢進症)での麻酔リスクはあるものの外科的に切除した方がメリットが大きく、オーナー様に外科療法を再度提案した。その後外科療法をご希望されたため、右腎臓摘出を行った。1週間ほどで退院した。病理検査結果では転移の可能性は低いが、念のため定期検査にて経過を追う予定である。【考察】猫の腎臓腫瘍は、リンパ腫や腎腺癌や腎細胞癌があり、リンパ腫の場合は進行が早く、抗がん剤治療を用いても数か月から、早期治療により寛解をした場合は長期生存が見込まれる可能性があります。腎腺癌や腎細胞癌については、転移等認められない場合、外科療法を行った際は長期生存が見込まれる可能性が高いです。基本的に血流やリンパ節を介して転移していきます。今回は、血流や尿管を伝わって転移する可能性があるため、同時に切除をし病理検査をすることで転移の有無や今後の治療方針組み立てに役立ちます。腎臓はエリスロポエチンと言う造血ホルモンを産生しており、骨髄に働きかけ赤血球の産生を促進します。今回は、腎臓が腫瘍化する事でエリスロポエチンを沢山分泌し、赤血球が産生されることで多血症が生じていました。逆に慢性腎臓病では、腎細胞の減少にてエリスロポエチン産生量が低下するため、貧血が生じます。多血症では、血液が濃くドロドロになり血栓が出来やすくなります。猫で血栓が出来ると、心筋梗塞や脳梗塞(即死のケースが多い)、もしくは後肢の付け根の血管に詰まる可能性が高いです。治療としては、血栓防止の内服薬を用いたり、瀉血処置が該当します。血栓防止は、クロピトグレル(プラビックス)やリバーロキサバンを使用します。瀉血処置は、頸静脈より血液を抜去し、輸液を行い薄める処置を指します。基礎疾患ある子や高齢の子の麻酔は、リスクはありますが麻酔をかけられない訳ではありません。しっかりと術前検査(血液検査、レントゲン検査、超音波検査など)を行い、事前にリスク評価を行うことで麻酔をかけることが出来ます。また上記のように手術を行うメリットが大きい場合手術を行いますが、絶対ではないため、しっかりオーナー様と相談し治療方針を決めます。院長は、猫では最長24歳、犬では18歳、ウサギでは12歳と高齢の子の手術経験があります。腫瘍化した右腎臓のエコー画像細胞診検査結果病理検査結果