今回は患者様のH君について紹介します。こちらの症例紹介についてはオーナー様の快いご承諾とご協力に感謝いたします。※手術後の傷の写真がございます、苦手な方はご遠慮ください。【患者背景】大型犬(MIX)、7歳、去勢雄【主訴】嘔吐後よりふらついている。起立困難で来院時はオーナー様お二人で毛布を担架代わりにし来院。【既往歴】なし【検査、評価】可視粘膜色が悪く、股動脈圧血圧が触知できず、腹部にて塊上病変を触知した。腹腔内出血による循環血液量減少性ショックを疑い、超音波検査と血液検査を実施。超音波検査上では、腹腔内の液体貯留、5cm程の塊病変認めた。超音波ガイドにて穿刺を行った所、腹腔内の液体は血液と同様の成分であった。また血液検査上では、貧血と血を止める血小板の低下を認めた。【診断】脾臓腫瘤の破裂でのショック【治療、経過】オーナー様とご相談し、緊急的に開腹手術にて脾臓摘出を行った。緊急だったため、供血にご協力してくださる方を見つけることが出来ず、腹腔内の血液を回収し自己輸血も検討していたが、手術後出血もなく2日目にて貧血や血小板が回復傾向であったため実施しなかった。手術後5日目にて食欲や元気が出ており、退院した。脾臓腫瘤は病理検査にて「血管肉腫」であった。現在論文を参考にし化学療法(抗がん剤治療)治療中である。【考察】脾臓は血液検査の項目はなく、脾臓腫瘤が拡大もしくは破裂して判明するケースが多いです。脾臓は血流が豊富な臓器であるため破裂した場合、腹腔内にて大量出血を引き起こしショックや死に至るケースがあります。今回はオーナー様が異常に気が付きご来院し、迅速に手術のご決断をしましたため、救うことが出来ました。急にぐったりしふらつきが認められる場合、口腔内(舌や歯肉)が普段より白っぽくなるため、同様な症状が認めらる場合は直ちにかかりつけの病院様への受診をお願いします。超音波検査にて発見されるケースがほとんどであるため、中年齢以上の小型犬(ダックスフントやトイプードルなど)や腫瘍になりやすい大型犬(トリーバー系やジャーマンシェパードなど)は定期的に超音波検査にて確認することが早期発見と治療に繋がります。脾臓腫瘤の約50%は悪性腫瘍(血管肉腫や間質肉腫やリンパ腫など)、約50%は良性病変(過形成や髄外造血や脂肪腫など)と言われています。しかし破裂する症例については約70%ほどが悪性腫瘍と言われています。良性病変でも徐々に拡大し破裂する危険性があるため外科的切除が必要なケースもあります。「血管肉腫」とは血管の内皮細胞ががん化したものを指します。そのため発見時には血流に乗って肝臓や心臓の右心耳に転移しているケースもあり、予後の厳しい悪性腫瘍であります。データ上では、脾臓摘出のみで平均生存期間中央値が1~2か月、脾臓摘出+化学療法で約6か月、一年生存率は10%未満となります。脾臓腫瘤は決して珍しい病気ではなく、中年齢以上の小型犬や腫瘍になりやすい大型犬では注意が必要です。症状も破裂するまで普段通りにご生活されることもあります。普段より健康状態を把握し、定期的な検査を行うことが大事になります。少しでも気になることがございましたら、かかりつけ病院様へのご相談をしてください。超音波検査にて血腹画像(超音波検査では液体を黒く映し出します。)脾臓腫瘤病変(超音波検査では実質は白く映し出します。)脾臓摘出後の傷